衆院選後の市場動向:識者はこうみる

第47回衆院選は、自民、公明の連立与党が全体の3分の2に当たる317議席を超える326議席を獲得して圧勝した。選挙結果を受けた市場動向に関する市場関係者の見方は以下のとおり。

<FPG証券 代表取締役 深谷幸司氏>

衆院選の結果については、与党が300議席を維持することが事前に予想されていたため、影響は限定的だった。早朝の外為市場は円高気味に振れたが、材料出尽くし感からの円買い戻しが背景だろう。

中国の景気先行き不安、ギリシャの大統領選、原油安など、グローバルな流れはリスク回避であり、年末にかけて、市場の流動性が低下する中でリスク回避の動きが一段と際立つ可能性がある。

来年については、米国株の動向が鍵を握ると考えている。

グローバルに景況感がさえず、米景気が相対的に堅調だとしても、利上げを控えて米国株がどれほど持ちこたえられるかが焦点だ。金利上昇と株安の中でリスクオフになる可能性があるとみている。

ドルの上値については、125円以上は購買力平価から行き過ぎであり、物価上昇を通じて消費に悪影響を与えるという点からもイエローゾーンだとみている。

来年のドル/円予想レンジ:113―127円

<新生銀行 執行役員市場調査室長 政井貴子氏>

与党で3分の2の議席を確保し、怖いものなしといえる。政策は軒先に並んでおり、あとは来年度から本当に法人減税できるのかなど、内容の勝負になる。日本側は株高・円安を支援する材料しかないといえる。

来年のドル/円は105―125円を予想する。ドル130円のストーリーは、米国側の要因で難しいだろう。米連邦準備理事会(FRB)は利上げを急がず、市場想定ほどに米金利は上昇しないとみている。

原油安が継続する一方、ドルが高い状況が続くのであれば、通貨高で物価に対する引き締め効果が出てくる。欧州、日本、中国といった、国内総生産(GDP)の大国が緩和を継続する中で、あえて金融政策を引き締める必要があるのか、米国は自問自答することになるのではないか。

<野村証券 チーフ為替ストラテジスト 池田雄之輔氏>

衆院選の結果については、市場は概して織り込み済みの反応だった。ただ、自民党の獲得議席数に関しては、選挙戦終盤の「自民単独で3分の2もあり得る」との強気予想を下回ったため、若干のドル/円の失望売りを誘った。

前週末の海外市場で原油と株価が共に急落したことや、日銀追加緩和、GPIFのリスク資産運用拡大、総選挙というアベノミクスの連続イベントが途切れたことで、海外投機筋にとっては、円ショートを積極的に積み上げるインセンティブが無くなった。

今後については、投機的な円売りポジションが相当大きいので、市場がリスクオフに傾斜するたびに、ポジションの巻き戻しが断続的に発生する可能性があり、当面はドル/円の下値リスクに警戒したい。

来年のドル/円予想レンジ:115―128円

<BNPパリバ証券 日本株チーフストラテジスト 丸山俊氏>

衆院選の結果は、市場の期待値から見て物足りなさを感じる。事前には自民単独で300議席を超す勢いと報じられ、日 経平均は1万8000円を一時回復したが、獲得議席は現状維持にとどまった。アベノミクスのモメンタムがピークアウトしたと捉えられてもおかしくないだろ う。政権安定化や経済政策の進展などはすでに株価に織り込んでおり、上値を買う判断材料としては迫力不足だ。

とはいえ日経平均が1万7000円を大きく割り込むことは想定しづらい。来年以降もアベノミクス継続による景気回復 策や株高政策が日本株の下値を支えるためだ。企業による株主還元の積極化などを受けて海外の中長期マネーも入りやすく、日経平均は1万8000円水準での 定着が期待される。日銀のさらなる追加緩和があれば1万9000円に届くかもしれない。

一方、リスク要因としては米経済の動向だ。米金融政策の引き締めなどで米景気に対する失速懸念が強まれば、日本株も一段の下押しが避けられないだろう。

<三菱UFJモルガン・スタンレー証券・チーフ債券ストラテジスト 石井純氏>

衆院選で自民・公明の与党獲得議席数は、定数の3分の2を超えた。国民がアベノミクスを追認したとの見方でいいだろ う。強いて言えば、公示前に比べた議席数を自民党が減らす一方、公明党は増やした。自民党暴走に対するブレーキ役として、公明党に期待が示されたのかもし れない。

大胆な金融緩和を含むアベノミクスが追認されたことで、黒田日銀は政府とのアコードに基づいて、物価目標2%の早期達成に向けて大胆な緩和姿勢を堅持し、必要があれば調整として追加緩和に踏み切るとみられる。

債券市場では、日銀の大胆な緩和が金利決定要因となっており、来年にかけて長期金利は、上昇余地をほとんど見込めず に、低下余地を探る動きになるのではないか。リスク要因は、日銀シナリオ通りに物価2%目標を達成し、出口論が現実味を帯びることだろう。しかし、原油価 格の下落が加わって、その実現はあり得ないと市場参加者は思っている。来年の10年最長期国債利回り(長期金利)レンジは0.35─0.55%を想定して いる。

<東洋証券 ストラテジスト 大塚竜太氏>

衆院選で与党が大勝したことは大きい。より具体的な経済対策が出てくることが期待される。成長戦略の進ちょく状況な どへの関心が集まることになるだろう。日本株に対する好需給も引き続き相場の下支えとなる見通しだ。一方、原油安は日本経済にとっては好材料だが、外部環 境については不透明感が出ている。米経済は堅調な状況が続くとみられるが、資源国については年明け後も影響が続くことが予想される。

きょう発表された日銀短観で、2014年度下期の大企業・製造業の想定為替レートは1ドル104円04銭。足元の水 準とは大きく離れている。国内の輸出関連企業の業績予想における上方修正への期待感は根強い。来年については資源国や欧州、中国の景気が落ち込むなら、ど の水準で底を打つかが一つのポイントとなりそうだ。

来期の予想レンジ:1万6000円─2万1000円

<JPモルガン証券 チーフ債券ストラテジスト 山脇貴史氏>

衆院選の結果は議席獲得数を見ると、与党サイドは何も変わっていない。選挙を受けて、与党の政策が停滞することは考えにくくなった。今まで通り、淡々とアベノミクスを進めていくことになるだろう。したがって、選挙だけに限ると、相場にはノーインパクトになる印象だ。

日本の国債市場は株式相場や為替相場の動向を気にしたうえで、日銀の異次元緩和がメーンファクターになることに変わりはない。金利は低位に抑えられることになるだろう。

原油安に関しては、来年1年というテーマではなさそうだが、ディスインフレという点で低金利ファクターにはなっている。債券マーケットにはサポート要因だ。

来年の日本国債の10年債利回り(長期金利)のレンジは0.300%─0.500%とみている。

 

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「原油安で脱デフレ頓挫」の誤解

この1カ月余りの間に決まった「量的・質的金融緩和」拡大(いわゆるQQE2)と消費増税延期をめぐっては批判も少なくないが、いずれもデフレからの脱却に必要な判断だったと考えている。

こうしたなか、日本経済には原油価格の大幅な下落を通じた交易条件の改善という強力な追い風が吹き始めた。

次の消費 増税が2017年4月へ先送りされることで、2015年半ばにかけて盛り上がると期待されていた駆け込み需要も後ずれする見込みだが、内需は今後、底堅さ を増す可能性が高い。

また、在庫調整の圧力が一巡しつつあることで、企業は来春にかけて徐々に増産に踏み切るだろう。筆者は2015年度の実質国内総生産(GDP)成長率について、市場予想(前年比プラス1%台半ば程度)を大幅に上回る可能性があるとみている。

一方、原油価格の大幅な下落は、実際の物価上昇率の鈍化を通じて、予想物価上昇率を引き下げ、デフレからの脱却を困難にする可能性がある。

このことは、「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に2%の物価安定の目標を実現する」という目標を掲げる日銀にとって 悩みの種となりそうだ。

それでも、当面は10月末に決定したQQE2の効果を見極める時期である。日銀の次の行動は、原油価格の下落が来年1年間を通じて続くなど、期間が長期化した場合だろう。

そもそも、原油価格の調整はすでに「後半戦」に突入している可能性が高いとみている。

というのも、原油に対する需要は米国のドライブ・シーズンに向けたガソリン精製の本格化で1―3月期に底入れすることが多いからだ。

石油輸出国機構(OPEC)の原油生産量も11月は減少した。

米国のシェールオイル開発ブームに一服の兆しがあるこ とも踏まえると、原油需給の緩和という市場参加者の見方はそれほど深刻化しない可能性もある。原油先物市場で期近が期先よりも安い「コンタンゴ」となっているのは、こうした思惑を反映していると考えることもできる。

なお、QQE1による予想物価上昇率の引き上げ効果は、実施から3カ月後の2013年7月頃から顕在化し始めた。

実際、消費者物価指数(CPI)の全採用品目の前年比変化率を観察すると、その頃から上昇幅を拡大させる品目と下落幅を縮小させる品目が増加している。

QQE2の予想物価上昇率を引き上げる効果については、2015年1―3月期頃から再び顕在化する可能性がある。

その時期に交渉が本格化する春闘でベースアップ(ベア)が実現した場合、予想物価上昇率は従来よりもしっかりと固定されることも期待される。

ちなみに、黒田日銀総裁が予想物価上昇率の固定されている国と紹介した米国の個人消費支出(PCE)デフレーターの 内訳をみると、1990年代半ば頃から多くの品目が前年比プラス0.5%から同3.5%に集中。

つまり、その頃から多くの企業は前年比プラス2%から上下差1.5%を前提に価格設定をし、家計もそれを受け入れ始めたと考えられる。

米国における「物価の安定」がPCEデフレーターで前年比プラス2%を指すことは今では広く知られているが、それが 米連邦準備理事会(FRB)内で共有されたのは1996年7月に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)だ。

このことは、金融政策が予想物価上昇率の形成に一定以上の役割を果たしていることを示すだろう。

金融政策を運営する上で予想物価上昇率を重視しているのはFRBだけではない。

例えば、欧州中央銀行(ECB)のド ラギ総裁は今年8月に「今日、中央銀行の政策の核心はコミュニケーション戦略」であるとし、「金融政策の効果は、将来の政策金利に関する期待の操作に一段と依存するようになった」と発言している。

これに対して、日本では依然として予想物価上昇率の役割に対する懐疑的な見方が少なくなく、金融政策でそれに働きかけることへの批判もある。

国内での予想物価上昇率をめぐる議論は少なくとも欧米に後れを取っていると言わざるを得ない。

日本人はどうも物事のデメリットに目を向けがちなようだ。実際、今回は原油安をめぐるシナリオに焦点を当てたが、その前は日本が通貨戦争に拍車をかけるとの批判があった。

それが今や円安はデメリットだという。通貨安がデメリットだとすると、通貨戦争は起き得ないだろう。

物事にはたいていメリットとデメリットがある。メリットを強調すると、思慮が足りないと思われがちだが、デメリットへの行き過ぎた配慮は現状維持を正当化することにもつながる。それは賢明な判断にみえて、必ずしもそうではない。

 

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