日銀追加緩和を招く円高シナリオの現実味

「2年程度で2%」のインフレ目標を掲げる黒田日銀体制がスタートして2年が経過した。やはり現実は厳しい。原油安もあって、2月の消費者物価(生鮮食品を除く総合、以下CPIコア)は、消費増税の影響を除いたベースで、前年比0.0%となった。

筆者の見通しでは、4月は一時的にマイナスとなる可能性もあり、夏までゼロ前後で推移する。しかし、日銀は原油安がもたらすゼロインフレに対して追加緩和を行わない。これが筆者の金融政策の基本シナリオだ。

日銀が 動かない理由の一つは、日本政府が円安の悪影響を懸念し、現段階では追加緩和を必ずしも歓迎していないことである。閣議決定の対象である月例経済報告は、 昨年12月まで「日銀には、2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現することを期待する」としていたが、今年1月以降は「日銀には、経済・物価情勢を踏 まえつつ、2%の物価安定目標を実現することを期待する」と、スタンスを大きく変えている。4月の地方統一選挙を控え、せっかくの原油安効果を追加緩和が もたらす円安で損なっては元も子もないという判断なのだろう。もはや安倍政権は2%のインフレ達成を急いではいない。

問題は、こうした日銀に 対する安倍政権のスタンスの変化に海外の投資家はあまり気が付いていないことである。先日、ロンドンに出張し、多くの投資家と面談したが、インフレ低下に 対し日銀が追加緩和を行うという観測が根強い。だとすると、安倍政権や日銀のデフレ脱却へのコミットメントに疑念が生じ、円高が進むことはないだろうか。

筆者は、米連邦準備理事会(FRB)が年後半にも利上げを開始する一方で、日銀は 公的債務への配慮から相当期間にわたってゼロ金利政策や長期国債の大量購入政策を継続せざるを得ないことなどから、円安トレンドは変わらないと基本的には 考えている。円高が進むリスクシナリオの実現には、いくつかの条件がそろうことが必要だ。しかし、検討して改めて感じたのは、それらはいずれも現実性が低 いわけではないことである。

<「期待のチャネル」を通じた円高リスク>

リスクシナリオの前に、念のため基本シナリオから説明しておく。前述した通り、政府が円安の悪影響を懸念し、追加緩和に対し消極的であるというのが、日銀が追加緩和を行わない第一の理由だが、残り二つの理由は、日銀サイドの要因である。

昨年10月末に追加緩和を行った際、黒田総裁は 原油安がもたらすインフレ期待低下の懸念を掲げていたが、より重要なのは、インフレを左右する需給ギャップの動向だったと思われる。消費増税で2014年 第2四半期の需給ギャップが想定通り悪化しただけでなく、当初改善が始まると考えていた第3四半期も悪化が継続していることが10月末段階で明らかになっ てきたため、追加緩和を行ったというのが最大の理由であろう。

しかし、昨年第4四半期には緩やかながらも需給ギャップ改善の再開が確認され、今年第1四半期からは原油安のプラス効果が広がり、改善継続が見込まれている。需給ギャップが改善を続けるのなら、原油安でインフレが低下しても、追加緩和は必要ない。

もう一つの理由は、年率80兆円の現在の長期国債購入ターゲットの継続そのものが難しいということだ。今年は年金積 立金管理運用独立行政法人(GPIF)が長期国債を大量売却するため目標達成は何とか可能だが、来年には現状ペースでの購入も難しくなり、追加緩和どころ ではなくなる。

もちろん、マイナスの金利で長期国債を買えば済むことだが、もし長期金利の引き下げが目的なら、そもそも無理をして購入量を増やす必要はない。後述する通り、筆者は、技術的な問題に対応するため、いずれ日銀はマネタリーベース・ターゲットから長期金利ターゲット、すなわち長期金利のペギング(pegging、固定政策)に移行するのではないかと考えている。

以上が筆者の金融政策に関する基本シナリオである。要は、家計や内需セクターへの円安の悪影響を懸念し、政府がスタンスを変え、不本意かもしれないが、日銀も機械的なインフレ・ターゲットから、フレキシブル・インフレーション・ターゲットに結果的に移行するということである。しかし、こうした政府、日銀の変化に対し、円高が進展するリスクはないのか。

期待に働きかける政策がもし機能するのなら、極めて不確実な波及経路ではあるが、政府、日銀の デフレ脱却へのコミットメントを人々が強く信認するから、円安などを通じ、それが自己実現的に達成される。それゆえ、その政策を遂行する場合、政策当局 者、とりわけ中央銀行総裁は狂信的かつ厳格なインフレ・ターゲット論者でなければならない(せめて、そのふりをしなければならない)。しかし、コミットメ ントへの疑念が広がると、期待の経路から反対に円高が進展し、今度は自己実現的にインフレ予想が低下する。これが、筆者の考えるリスクシナリオのメカニズ ムである。

筆者自身は、量的質的緩和政策の「期待のチャネル」を重視していないが、黒田総裁は、信念が失われたと疑われることで、市場参加者の期待が変わり、円高が進展することを恐れているようだ。だからこそ、「2年程度で2%」の旗を降ろさないのだろう。ただ、金融市場は政府と日銀を一体として捉えている。仮に「期待のチャネル」仮説が正しく、そして黒田総裁が奮闘を続けるとしても、安倍首相のデフレ脱却へのコミットメントに疑念が生じれば、「期待のチャネル」を通じ、円高が生じるリスクがある。

原油安はインフレ低下以外にも、為替レートに影響をもたらすリスクがある。貿易収支の改善という経路である。 2014年の貿易赤字は通関ベースで12.8兆円だったが、原油安の影響で2015年は7兆円強の改善が見込まれる。さらに、超円安の結果、2015年は 輸出もある程度は回復が見込まれる。

筆者自身は、日本経済が完全雇用の領域にあることから、原油安による減税効果で支出が増えても、国内生産で全てを賄 うことができないため、一部は輸入増や価格上昇につながり、貿易黒字は定着しないと予想している。しかし、一時的にせよ貿易収支が黒字化すれば、対外収支 に対する見方ががらりと変わり、円高が進むリスクはないか。

<米利上げ観測後退とドル高政策修正リスク>

リスクシナリオの検討を続けよう。今春、CPIコア前年比がゼロないしマイナスに低下しても日銀は追加緩和に踏み切らず、貿易赤字も想定外に黒字化する。政府・日銀のデフレ脱却へのコミットメントに疑念が広がると同時に、対外収支への見通しも大きく修正されれば、円高進展リスクが高まるのではないのか。ただ、それでも円安シナリオの大きなアンカーがある。

米利上げ観測がドル高トレンドをサポートするはずである。3月17―18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で も、年後半以降の利上げシナリオは維持されていた。確かに、第1四半期の米景気にはもたつきも見られるが、これは、東海岸の悪天候や西海岸の港湾ストによ る一時的な影響であって、今後は原油安のプラス効果がより強まってくる。

しかし、米国では過去数年、春先に景気後退とまではいかないまでも、何度か景気の中弛み(ソフトパッチ)に陥ること があった。今回は原油安のおかげでインフレが落ち着いているため、景気の持ち直しが明確になるまで、利上げを先送りするシナリオも考えられる。そうなれ ば、ドル高傾向にも変化が現れるかもしれない。

実は、3月のFOMCの声明文で、気になることがあった。そこでは、輸出が軟調と表明されていたが、記者会見でイエ レンFRB議長は原因の一つがドル高であると述べている。もちろん、ドル高のプラス効果にも触れてはいるが、今後、景気やインフレに対する抑制効果がより 強調されるようになれば、利上げ観測は遠のく。

さらにドル高問題は、2016年の米大統領選挙が近づくと、政治的色彩を帯びてくる。振り返ると、今回の通貨戦争は2014年10月末の日銀追加緩和が引き金を引いた。欧州中央銀行(ECB)はデフレを恐れ追加緩和で対応し、周辺国、新興国でも金融緩和による通貨切り下げ競争の様相が強まっている。その結果、唯一、引き締め方向に動いた米国の通貨高がここに来て目立っている。

実質ベースで見るなら、米ドルの増価は現在も限られているが、通貨高に対する政治的な反発は、往々にして名目為替レートの上昇が引き起こす。2009―12年の日本でも、実質ベースでは、それほどの円高ではなかったにもかかわらず、円高を解消できない日銀に対し政治的バッシングが広がった。ドル独歩高の様相になっていること、米大統領選挙という政治の季節が始まろうとしていることなどから、今後、ドル高に対するけん制や反発が米国の議会関係者や産業界から生じるリスクがある。

<長期金利ターゲットに移行か>

以上、4つの条件(日本政府のデフレ脱却へのコミットメントの揺らぎ、日本の貿易収支の黒字化、米経済のソフトパッ チ入りによるゼロ金利解除観測の後退、米大統領選挙を前にしたドル高政策への反発)がそろい、昨年10月末の追加緩和前(1ドル=110円程度)の水準を 超えて円高が進めば、日銀は追加緩和に踏み切るかもしれない。

因果関係はともあれ、黒田総裁はインフレ期待が上昇する過程では、それを織り込んで円安が進むと考えている。円高トレンドに変われば、インフレ期待が低下し、デフレ脱却がさらに遠のくため、追加緩和に踏み切っても不思議ではないだろう。

では、追加緩和を行うとすれば、日銀は何を買うのか。前述した通り、長期国債の買い増しは相当にきつい。地方債や政府保証債という声もあるが、発行額も限られ、それでは黒田総裁の嫌う小規模購入、逐次投入に終わる。

そこで、日銀が追加緩和に踏み切る際には、従来の量的ターゲットから事実上の長期金利ターゲットに移行するのではないかと筆者は考えている。

超過準備の付利を引き下げ、付利水準まで長期国債を購入すると表明すれば、長期金利を下げることができる。ターゲッ トを達成するため、事実上の無制限購入ということになるが、実際には、購入額を拡大する必要はない。現状の需給ひっ迫を考えれば、ネットで年率80兆円を 大きく下回る購入額で達成は可能であろう。

近年、先進国の中央銀行が金利ターゲットから量的ターゲットへ移行した最大の理由は、政策金利がゼロ制約に直面した ためだった。しかし、超過準備への付利はもちろん、長期金利もマイナスまで低下することが明らかになっている。経済や物価と金利の関係はかなり明瞭だが、 中央銀行のバランスシートの規模との関係は相当に不明瞭である。もともと、中央銀行は、オーバーナイト金利を操作して長期金利に働きかけ、総需要の刺激を 図ってきたのであるから、長期金利をゼロやマイナスまで下げることが可能なら、量的ターゲットより長期金利ターゲットの方が政策運営は容易だろう。将来、 振り返れば、量的ターゲットは「時代の従(あだ)花」ということになりはしないだろうか。

もちろん、操作変数を短期間で変更することは信認問題もあって容易ではない。しかし、操作目標の引き上げが技術的問 題で不能となり、2%のインフレ目標を断念するよりは信認問題をはるかにクリアーしやすいのではないか。長期金利を下げるための事実上の無制限購入政策で あることが認識されれば、量的ターゲットのバージョンアップと人々の目には映るであろう。

 

日経平均は反発、内需株が相場をけん引

前場の東京株式市場で日経平均は反発。上げ幅は100円を超えた。朝方発表の2月鉱工業生産指数速報が予想を下回ったことで、寄り付き後はマイナス圏で推移する時間帯もあった。

しかし、海外株式市場や為替相場など外部環境が落ち着いていたことや、国内景気への期待感が相場の支えになり、前場中ごろから戻りを試す展開となった。

経済産業省が30日発表した2月鉱工業生産指数速報は前月比3.4%低下となった。ロイターの事前予測調査では前月 比1.8%低下と予想されていたが、発表数値は予想を下回った。これを受けて自動車、電機などの輸出株は総じて軟調だったが、国内景気の先行き期待が根強 く、食品、小売、不動産などの内需系銘柄が買われて相場をけん引した。3月期末の配当権利取りは終了したが、公的マネーが買い余力を残しているとみられる など好需給の持続も安心感につながった。

市場では「今週は経済指標の発表も多く動きにくいが、投資家はキャッシュ比率が高まっている状況だ。日柄調整を経た後に再度上値を試す展開だろう」(中銀証券本店営業部次長の中島肇氏)との声が出ていた。

個別銘柄では、キッコーマン(2801.T: 株価, ニュース, レポート)が反発。2015年3月期の連結営業利益が247億円前後と従来予想水準を確保し、7年ぶりに過去最高を更新すると報じられたことを材料視した。半面、gumi(3903.T: 株価, ニュース, レポート)が続落。27日、100人程度の希望退職者を募集するとともに一部のブラウザゲーム資産を譲渡することを発表し嫌気された。

 

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日経平均は下落後切り返す、権利取り・好需給が支援

東京株式市場で日経平均は反発。後場に入り先物に大口の売りが出て 前日比で一時171円安まで下落した後に下げ渋り、プラス圏に浮上した。3月期末を前にした配当権利取りの動きや公的マネーの買い支えへの期待感が支えと なった。繊維や建設株など出遅れ感のあった業種が上昇した一方、ここのところ上げ基調にあった医薬品は下落。業種間での循環物色の傾向がみられた。

前日の米国株式市場では主要3指数が下落となり、外部環境に買い手掛かり材料が乏しいなかで、朝方の東京市場は買い優勢で始まった。ただ昨日に続き23日に付けた昨年来高値1万9778円60銭に迫ると伸び悩み、利益確定売りに押された。

後場に入ると先物主導の荒い展開となり、日経平均は一時1万9500円台前半まで下落。だが「配当権利取り最終日の 26日に向け、下がったところでは高配当銘柄を中心に買われやすい」(内藤証券・投資調査部長の田部井美彦氏)との見方に加え、下値では公的マネーが買い 支えに動くという期待感も継続し、底堅さを示す形となった。

昨日まで大幅高が続いたエーザイが前日比で5.43%安。ファナックも下落し指数を押し下げた。上昇基調にあった銘柄が総じて利益確定売りに押された一方で、日本ペイントホールディングスやリコーなど前日に下げた銘柄や出遅れ業種の一角には押し目買いの動きもみられた。

個別銘柄では、減損処理を発表した三菱地所、住友商事がしっかり。来期の業績への不安要因払しょくにつながると市場では受け止めらえた。

半面、ブラジルの関連会社で損失が発生する可能性があると発表した東洋エンジニアリングが大幅安。期末配当金の実施が困難になる見通しとなり嫌気された。免震ゴムで新たな不適合製品が存在する疑いが発覚したと発表した東洋ゴム工業は後場に下げに転じた。

東証1部騰落数は、値上がり851銘柄に対し、値下がりが891銘柄、変わらずが134銘柄だった。